認知症の新薬アデュカヌマブは画期的な新薬?
6月7日、アルツハイマー型認知症の新薬「アデュカヌマブ」が米国で承認され、話題となっています。日本でも共同開発企業のエーザイの株価が大きく値上がりしました。また、いつ保険適用となるのかが話題となっています。
認知症の薬剤はコリンエステラーゼ阻害剤の「アリセプト」(エーザイ)が有名ですが、この薬剤は初期の認知症の進行を遅らせるものであり、改善や進行を抑制するものではありませでした。この進行を遅らせる薬剤以外、十数年、認知症の薬剤はなかったのです。今回、新しい作用の薬剤が誕生したことはよいことだと思いますが・・・。
アデュカヌマブ承認に異論!
米国ではアデュカヌマブの承認に患者支援団体などから大きな喜びの声が上がりました。しかし、承認をした米国食品医薬品局(FDA)にある諮問委員会の11名の委員のうち、3名が抗議をして辞任しています。「最悪の医薬承認になるだろう」と言って・・・
アデュカヌマブは、認知症の原因が脳内にアミロイドβ(タンパク質の一種)がたまり、神経細胞が壊死することによるという仮説に基づき、開発された抗体医薬です。
この仮説に基づき、多くの製薬会社が開発を試みましたが、結果は散々でした。
アデュカヌマブも2つある国際共同臨床試験では有効性がなく、再度、試験を見直し、1つの試験の高用量では有効性がある。進行抑制効果がある。として、FDAに申請したのです。
でも、食品医薬品局の諮問委員会は「エビデンスが不十分、ほぼ満場一致で承認を否決」としました。
しかし、FDAは「アルツハイマー型認知症には治療の選択肢がほとんどない切迫した状況」とし、追加の検証的試験にて有効性がないと分かれば承認を取り消すとの条件付きで、迅速承認をしました。
今回の迅速承認はアルツハイマー型認知症のうち、軽度認知障害(MCI)について行なわれ、米国で100万人の患者がいると推計されています。日本は462万人(2012)の認知症患者がいるとされています。このうち、MCIの方がどのくらいいるでしょうか?
さらなる問題が!
アデュカヌマブについては、さらなる問題があるとされています。
アデュカヌマブは抗体医薬のため、薬剤の価格が非常に高いのです。なんと! 1人当たり年間約600万円、試験は3年間でしたので、約1,800万円となります。
投与する患者さんは、MCI、つまり軽度の認知症患者さんです。改善効果はありませんが、進行抑制効果があるとなれば使用したい。長期になる可能性は高いと思われます。
日本での承認はどうなるのか分かりませんが、承認となれば、皆保険の日本では多少安くなると思われます。窓口負担は高額療養費の対象となり、約7~8万円程度になります。かりに米国で100万人、日本は人口比から1/3程度の対象者、価格は半分の300万円と考えても薬剤費、医療保険金額は膨大な金額となります。
なるほど、健康保険料があがるのね! と考える方が多いと思います。
確かに健康保険料はあがるのですが、医療保険制度の財源構成は、自己負担約10%、保険料約50%、公費(国、地方)約40%となっています。
健康保険料は上がります。この結果、皆さんの手取り金額はその分減少します。
では税金はどうでしょうか。健康保険料は社会保険料控除の対象です。つまり、税金は多少安くなります。ちょぴり、助かります。
税金が減るとどうなるか? 医療保険制度の約40%は公費、税金です。つまり、国、地方の財源、赤字の要因が増えると言うことになります。
なかなか難しい話です。多少、回りくどい話ですが、そういう側面もあるかな・・・と考えていただければと思います。
ところで、最後に一言、
アミロイドβを取り除いたとして、壊死した神経細胞はどうなるの? 素朴な疑問です。